24年度校内研究

1 研究主題

「生き生きと学び,確かな学力を身につける子どもの育成」

―国語科における論理的思考力を高める言語活動を取り入れた授業実践を通して―

2 主題設定の理由

(1)学校教育目標の具現化から

本校では,「主体性,創造性に富み,心豊かで,心身ともにたくましい児童の育成」を教育目標に掲げ,目ざす児童像として,「知的好奇心にあふれる子ども」「自分を表現できる子ども」を設定している。これらは,本年度の指導重点項目の「確かな学力の育成」のためにある,「基礎的・基本的な知識及び技能の習得・定着,それらの活用,主体性を引き出す指導の工夫,論理的思考力を高める指導法,指導力を高める校内研究の充実」などがなされたときに具現化されるものと考えている。

学習指導要領の完全実施2年目を迎え,各教科では,言語活動の充実が求められている。また,「確かな学力の育成」のためには,実生活に生きて働き,各教科等の基本となる国語の能力を高めることが肝要である。そこで,研究の対象を国語科にしぼり,児童の実態に即した言語活動を授業に取り入れ,論理的に思考し表現する能力や互いの立場を尊重して言葉で伝え合う能力を育てていきたい。

こうした効果的な言語活動を取り入れた授業実践をくり返すことによって,目ざす児童像の具現化,ひいては学校教育目標の具現化がなされるものと考える。

(2)昨年度までの研究から

本校では,平成19年度から3年間山梨県教育委員会の「確かな学力ステップアップ事業」の実践検証校の指定を受けていた。「確かな学力ステップアップ事業」は,「基礎学力向上やまなしプラン(H14H16)」「学びの意欲向上推進事業(H17H18)」を継承するものであり,「全国学力・学習状況調査を始めとする客観的なデータに基づいて児童生徒の学力や学習の状況を把握し,その改善に向けての具体的な対策を通して,すべての児童生徒の確かな学力の定着と向上を図ること」を目的としていた。

その研究の内容・方法は次の通りである。@自校の全国学力・学習状況調査結果を分析して傾向及び課題を把握し, 検証改善委員会作成の『結果改善のための手引き』等を参考に,「授業改善プラン」を策定する。A「授業改善プラン」に基づいた授業実践を行い,プランの効果を検証する。B検証を基にプランに検討を加え,修正すべきは修正した上で,授業実践を行う。C「AB」を繰り返し,検証改善サイクルを確立する。つまり,「学力向上を目的としたPDCAサイクルの導入」という研究手法である。19年度・20年度・21年度ともに,「全国学力・学習状況調査」のデータ受け取り後,直ちに結果を分析し,本校の傾向(成果及び課題)を把握して,「授業改善プラン」を作成した。これらのプランを,随時,授業で実践し,その有用性を検証して改善点を探りつつ,検証改善サイクルを確立してきた。そして,平成21年6月26日に公開研究発表会を開催,研究の成果を発表し,研究指定校の役目を果たした。

 平成22年度は,「全国学力・学習状況調査」が悉皆ではなく抽出調査となり,本校は「全国学力・学習状況調査」を受けなかった。そこで,北杜市学力到達度検査(CDT)の結果を分析し,「授業改善プラン」を作成し,研究を進めたが,市の学力テストの結果を分析し「授業改善プラン」を作成することには無理があることがわかってきた。

 平成23年度からは国語科に絞り,今までの研究を継続・発展させ,効果的な言語活動を取り入れた授業実践を中心に研究を進めた。学力テスト等から「授業改善プラン」を作成することに固執せず,学力テストやアンケート・授業観察やスモールテストなど多面的に児童の実態を把握するとともに,それらを基に,より効果的な言語活動を取り入れた授業を求めて研究することが必要であることがわかってきた。

そこで,今年度は,児童の実態に即し,基礎的・基本的な知識・技能を活用し,学び合いをとおして相互に思考を深めていくような授業を行っていきたい。さらに,児童一人一人の論理的思考力の高まりを把握するために,国語科の目標やねらいに照らしてその実現状況をみる評価を着実に実施する研究を進めていくことが重要だと考える。

(3)児童の実態から

本校児童は総じて素直であり,授業や宿題に地道に取り組む姿勢が身についている。また各種学力調査の結果から,ほぼ全国・県平均の学力を有しているといえる。しかし一方,一定時間,集中して話を聞いたり学習を進めたりすることのできない子どもがみられ,「がまんしてやりぬく」「集中して取り組む」態度の育成は喫緊の課題といえる。また,自分の考えや感想を発表することが苦手であったり,友だちと考えを伝え合うことに消極的であったりする子どもが多いのも現状である。

確かな学力を身につけるためには,これら学習に向かう態度についての課題解決は不可欠である。そのために,学習意欲を促す日常の授業での意図的な働きかけや,自分の意見や考えをどうしても言いたくなるような学び合いの場面を取り入れた授業実践を積み重ねていくことが必要であろう。

本校児童に身につけさせたい力は何かという課題を常に意識し,教職員が意見交換しながら,「児童に対峙した研究・実践」を進めていきたい。

(4)今日的課題から

新指導要領実施二年目を迎え,学校現場でも一年間の実践をとおして全体像が見えてきた。今年度は,昨年度の実践を基に,それぞれの学校の特色を生かして工夫・改善をおこない,それぞれのスタイルを確立していくことになると思われる。

学習指導要領が求める生きる力とは,「確かな学力」「豊かな心」「健やかな体」の育成によってはぐくまれるものである。その中でも,「確かな学力」を育成するために,創意工夫を生かした特色ある教育活動を展開する中で,基礎的・基本的な知識及び技能を確実に習得させ,これらを活用して課題を解決するために必要な思考力,判断力,表現力等をはぐくむことが求められている。その際,言語活動を充実するように配慮しなければならない。

 また,国語科においては,実生活で生きてはたらき,各教科の学習の基本ともなる国語の能力を身につけることに重点を置いている。特に,言葉を通して的確に理解し,論理的に思考し表現する能力,互いの立場や考えを尊重して言葉で伝え合う能力を育成することを重視している。そのため,基礎的・基本的な知識・技能を活用して課題を探求することのできる国語の能力を身につけることに資するように,実生活のさまざまな場面における言語活動が具体的に例示されている。

新学習指導要領が唱える生きる力をはぐくむことは今日的な課題であり,そのためには,児童の言語活動を充実させ,「確かな学力」を育成していかなければならない。いわゆる知識基盤社会といわれる変動の激しい現代社会をたくましく生きていくために生きる力は必要不可欠な教育課題である。児童の「生きる力」をはぐくむためにも本主題を設定した。

3 研究の目標

 国語科の授業を通して,児童の実態に即した論理的思考力を分析・具体化し,それらを高めるような言語活動を取り入れた授業実践を行うことにより,確かな学力を身につけた児童を育成する。

4 研究仮説

  国語科において児童の実態に即した言語活動の充実を図り,効果的な評価を行うことにより,児童の論理的思考力は高まるだろう。

○論理的思考力とは

辞書によれば,「論理」とは「議論の筋道。物事を合理的に考える方式」であり,「論理的」とは「推論の仕方に筋道が通って,あいまいさがない状態」であると説明される。この記述を基に,国語の学習内容に即して簡略に表せば,論理的思考力とは「言語を使って筋道を立てて推理・判断する能力」と定義することができよう。さらに具体的な内容を盛り込んで表現すれば,「直観やイメージによる思考ではなく,言語を使って,分析・総合・抽象・比較・関係づけなどを行う思考の能力」ととらえることができるだろう。

また,「これからの時代に求められる国語力について」(平成16年2月3日,文化審議会答申)では,「今後の国際社会の中では,論理的思考力(考える力)が重要であり,自分の考えや意見を論理的に述べて問題を解決していくことが求められる。」「論理的思考力の育成は,国語科が大きな役割を担うべきである。日常生活の論理は言葉の論理でもあるので,言語を通して身に付けるのが最も効果的であると考えられるからである。具体的には文章を書くことの指導や自分の考えや意見を述べる機会を多く設けることなどにより論理的思考力を高めていくことが必要である。」と述べられている。

 その後,平成198月には,言語力育成協力者会議の「言語力の育成方策について(報告書案)」が中央教育審議会に報告され,「言語力は,知識と経験,論理的思考,感性・情緒等を基盤として,自らの考えを深め,他者とコミュニケーションを行うために言語を運用するのに必要な能力」であり,「言語力の育成を図るためには,(中略)学習指導要領の各教科等の見直しの検討に際し,知的活動(論理や思考)に関すること,感性・情緒等に関すること,他者とのコミュニケーションに関することに,特に留意すること」と言語力と論理的思考力の関係が示されている。

 さらに,各種の学力調査の結果からは次のように指摘されている。平成21年に実施されたPISA調査の結果においては,『必要な情報を見付け出し取り出すことは得意であるものの,情報相互の関係性を理解して解釈したり,自らの知識や経験と結び付けたりすることが苦手である。』平成22年度全国学力・学習状況調査の結果においては,『資料や情報に基づいて自分の考えや感想を明確に記述すること,日常的な事象について,筋道を立てて考え,数学的に表現することなど,思考力・判断力・表現力等といった「活用」に関する記述式問題を中心に課題が見られた。』これらの指摘は,論理的思考力を児童の実態から分析するときに参考になると考えられる。

○言語活動の充実とは

平成20年答申では,言語は知的活動(論理や思考)の基盤であるとともに,コミュニケーションや感性・情緒の基盤でもあり,豊かな心を育む上でも,言語に関する能力を高めていくことが重要であるとしている。このような観点から,新しい学習指導要領においては,言語に関する能力の育成を重視し,各教科等において言語活動を充実することとしている。
 
 国語科においては,これらの言語の果たす役割を踏まえて,的確に理解し,論理的に思考し表現する能力,互いの立場や考えを尊重して伝え合う能力を育成することや我が国の言語文化に触れて感性や情緒を育むことが重要である。そのためには,「話すこと・聞くこと」や「書くこと」,「読むこと」に関する基本的な国語の力を定着させたり,言葉の美しさやリズムを体感させたりするとともに,発達の段階に応じて,記録,要約,説明,論述といった言語活動を行う能力を培う必要がある。
  各教科等においては,国語科で培った能力を基本に,それぞれの教科等の目標を実現する手立てとして,知的活動(論理や思考)やコミュニケーション,感性・情緒の基盤といった言語の役割を踏まえて,言語活動を充実させる必要がある。
 
 各教科等における言語活動の充実に当たっては,これまでの言語活動を通じた指導について把握・検証した上で,各教科等の目標と指導事項との関連及び児童生徒の発達の段階や言語能力を踏まえて言語活動を計画的に位置付け,授業の構成や指導の在り方自体を工夫・改善していくことが求められている。

○効果的な評価とは

文部科学省は,昨年度「小学校,中学校,高等学校及び特別支援学校等における児童生徒の学習評価及び指導要録の改善等について(通知)」を発出し,新しい学習指導要領の趣旨等を踏まえた学習評価の在り方を示した。新しい学習指導要領においては,思考力・判断力・表現力等を育成するため,基礎的・基本的な知識・技能を活用する学習活動を重視するとともに,知的活動(論理や思考)等の基盤といった言語の果たす役割を踏まえて,言語活動を充実することとしている。「思考・判断・表現」の観点については,基礎的・基本的な知識・技能を活用しつつ,各教科の内容等に即して思考・判断したことを,説明,論述,討論等といった言語活動等を通じて,思考・判断の過程を含めて評価するものであることに留意する必要があるとしている。学習指導の改善や教育課程全体の改善につながる学習評価の意義・目的を踏まえ,言語活動を通して育成する,思考力,判断力,表現力等について,各教科の対応する観点において適切に評価することが求められている。

5 研究主題等に関わる「確かな学力」のとらえ方

学校教育法第30条2項には,小学校における教育の方針が次のように示されている。

「前項の場合においては,生涯にわたり学習する基盤が培われるよう,基礎的な知識及 び技能を習得させるとともに,これらを活用して課題を解決するために必要な思考力, 判断力,表現力その他の能力をはぐくみ,主体的に学習に取り組む態度を養うことに, 特に意を用いなければならない。」

 また,20年3月に公示された小学校学習指導要領は,この規定を受けて今後の教育 の具体的方針を次のように示した。

「学校の教育活動を進めるに当たっては,各学校において,児童に生きる力をはぐくむ ことを目指し,創意工夫を生かした特色ある教育活動を展開する中で,基礎的・基本的 な知識及び技能を確実に習得させ,これらを活用して課題を解決するために必要な思考 力,判断力,表現力その他の能力をはぐくむとともに,主体的に学習する態度を養い, 個性を生かす教育の充実に努めなければならない」(教育課程編成の一般方針1)

 以上のように,改正された法令等が定めた教育・学習指導の方針は,

 ・基礎的・基本的な知識及び技能の習得

 ・これらを活用して課題を解決するために必要な思考力,判断力,表現力等の育成

 ・主体的に学習する態度の養成

の3点に集約されるが,文部科学省は,これらの能力・態度を「確かな学力」ととらえ るとしている。「生きる力」をはぐくむことが,学校教育の今日的な重要課題であるこ とは広く認識されている。「生きる力」を構成する要素である「確かな学力」の内容と しての3点は,理解が容易であり,かつ普遍的でもある学力観であると思われる。

 本校では「確かな学力」を,前記の3点総体ととらえることにする。この場合,基礎 的な知識・技能の土台の上に,思考力・判断力・表現力等の伸長が図られるのではなく ,両者は相互に関連し合って向上していくものであると考える。また,これらの能力を 高める基盤となるのが,主体的に学習する態度である。この態度は基礎的・基本的な知 識及び技能の習得やこれらを活用するような学習活動を通じて,一層の向上が促される という双方向の関係も有している。

この構造を念頭に置きながら,日常の学習指導に当たっていきたい。